灰色達夜鷹◆第一羽
西日が瞳を突き刺す。
遮光カーテンを力なく閉め、電気もつけずソファに腰掛けた。
テレビのチャンネルだけがグルグル回る。
今、何周目だろう。
目に留まる番組は一つも無い。
退屈だ・・・。
テレビの電源を切る。
ブランケットを首から足まで巻いて芋虫と化した。
何度目の緊急事態宣言だろう。
何度目の休業要請だろう。
再びアルバイトの収入が減るのかと思うと、死にたくなる程不安になる。この歳で貯金が無いのも、食材の仕送りを両親にしてもらうのも、全てが情けなく、そしてこんな世の中が恨めしい。
嫌な事ばかりを考えても仕方が無い。
そう思うようにしていても、何も出来ない退屈な時間のせいで、ふと同じ事ばかりが思い起こされてしまう。
こんな生活、いつになったら終わるのだろう。必死に踏ん張って気を張っていないと、蟻地獄のように何処か暗い場所へ飲み込まれてしまいそうだ。
何も無い事が一番耐えられないな。何か、暇を潰そう。ブランケットの殻を破り、思い切りソファから立ち上がった。適当な洋服に着替え、キャップを深く被り、流れ作業のようにマスクを装着する。最初はマスクなんて息が詰まると思っていた。けれど、今ではすっかり日常化してしまい、何も違和感が無くなった。
それが当たり前になっていく事が恐ろしい。
財布をポケットに入れて、靴を履く。
扉を開けると、西日が全身に突き刺さる。眉をひそめ、薄目のまま錆だらけの階段を軽やかに下り、年季の入った自転車に跨った。
先ずは夕食の弁当を注文するため、入口前に設置されたアルコールで手を消毒し、店内に入る。別に腹に入れば何でも良いのだけれど、一丁前にレジ前で悩む。一番安いのり弁当でいいか。悩んだ挙句、結局いつも同じ物だ。店員さんにも「のり弁の人」と憶えられているかもしれない。
夕飯時なのか、ちょうど注文が混み合っている時間帯だったので、出来上がりまで少し時間がかかると言われた。その間、店内で待つのも何なので弁当屋の近くのレンタルビデオ屋へ行った。
観たいものはこれと言って無い。退屈を凌げて、気を紛らわせられれば何でも良かった。店内をゆっくり歩きながら、出来るだけ安いDVDを探す。
あ・・・これは初めて付き合った子とデートの時に観た邦画。もう13年も前の作品だ。
懐かしいな・・・。
確か、感動的な内容の余り此方が先にボロ泣きして、相手を困らせてしまったんだっけ。
あの頃は楽しかった。
DVDを手に取ってみる。あれ・・・どんな内容だっけな。最後は確か男性の方が病気で亡くなるんだったよな。オチは思い出せるのだけれど、詳しい内容は記憶の中から飛んでしまっている。旧作だから値段も安い。この機会に見直してみよう。
後は適当に面白そうな旧作を幾つか選んでレジへ向かった。
無愛想な店員の前で精算を済ませると、弁当が出来上がるくらいの調度良い時間になっていた。レンタルビデオ屋を後にし、弁当を受け取り、出来たてでまだ温かい弁当と借りたDVDを自転車のカゴに乗せた。
夕日が落ちるのを見ながら、ゆっくり自転車を走らせた。