鳥たちよ、自由に羽ばたいてゆけ

私たちもいつか羽ばたけると信じて

花は、詠う

赤信号で止まる。 後部座席から桜並木を眺めている。 白いような、ほんのりピンクがかったような、何とも曖昧な色をしたソメイヨシノの花弁。 再び車が走り出すと、景色が揺れる。 規則正しく並んでいる木々が混ざり合い、それらが一本の線になり、スーっと…

何者にもなりきれない何者でもない私へ

自由に飛び回る鳥になりたいのに 目がつり上がってるから猫なんだってさ いっぱい笑いたいのに クールな方が美人なんだってさ 思い切り泣きたいのに みっともないからやめなさいってさ 怒りたい時だってあるのに 周りに迷惑をかけるんだってさ あの頃あの子…

あるバンドの話

ここ最近、また寝つきが悪くなってしまった。 薬は飲んでいるのにな。 イマイチ効きが悪いのは、心配事が増えたからだろうか。 と言っても、心配事が増えるような目まぐるしい生活を送っている訳ではないのだけれど。 仕事でちょっと色々あったからだろう。 …

夕焼けに消えた沢鵟

「君は本当に可愛いな。」 「大好きだよ。」 「ずっと一緒に居ようね。」 その言葉が、その声が、それだけが頼りだった。 この世界の特別にはなれないと知ってから何者にもなれなくなった私が、この先の未来をただ平凡に、けれど幸せに歩いて行くための道標だった…

鶩の答えを探して

薄明るくなったカーテンの外。 微かな光にさえ反応して目が覚めてしまう自分に溜め息をつきながら、痺れている左腕を庇いつつ寝返りをうつ。 そっと動いたつもりなのに、少しでも揺れると軋むベッド。 思っていたより大袈裟な音に焦り、隣を見る。 心配を他…

(2021年、お世話になった皆様へ)

大晦日がやってきましたね。個人的には、今年もあっという間だったように感じます。皆様にとってはどんな1年だったでしょうか。 辛いこと、哀しいこと、やるせないこと、もどかしいこと・・・数え切れないほどに有ったかもしれません。 思い出したくないことも…

空に消えた七面鳥

僕は確かに愛されていた。 それが凄く痛かった。 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 12月24日、早朝。 世間は、クリスマスイブ。 夜になれば、今年も浮かれたカップル達や家族連れが街中を色鮮やかに染めるだろう。 僕には無関係なのだけれど。…

剥き出しの足黒人鳥

ガスストーブでガンガンに暖めたリビングに一人、私は楽しみにしていたテレビ番組を観ている。リアルタイムで観ることが叶わなかったため、仕方なく録画なのだけれど。 最初は意識して背筋を伸ばしながら座っていたのに、気を抜けば猫背になる私の背部。 そ…

モザイクの、その先へ ⑵

「青木〜、ちょっと。」 先程私が淹れた珈琲を片手に、課長が手招きをしてくる。 「昨日、小鳥遊君来たの?」 「はい。伝達事項は其方の付箋に書いてある通りです。」 「定時過ぎに来るなんてあの子も忙しいね〜。」 「そうですね。」 他所の社員の忙しさは認めている…

モザイクの、その先へ ⑴

目の前で後輩が瞳を潤ませている。まるで仔犬の様なその姿を見ていると、簡単に怯みそうになる。それでも、私は必死に心を鬼にする。 ・・・どうせ私は悪者なのだろうな。 こんな風に被害的な思考になってしまうのは、この会社に居る馬鹿な男達の所為だ。“男達”…

トゥルナの独り言②

私は仕事が好きでした。 16歳のアルバイト時代から、病気になるまでの正社員時代を全て含め、私の半生を一言で表すとすれば、「仕事」と答えると思います。 私にとって「働く」という事は、将来役に立つか定かでない事を学校で学ぶより、遥かに充実感があるもの…

トゥルナの独り言

私は父が嫌いです。人間の中で一番憎悪を抱く位には嫌っています。 彼に対して“父”という固有名詞を使うのも、本当は鳥肌が立ってしまう程です。然し、事情の知らない他人に彼の話をする時には、仕方が無いので父と呼んでいます。 物心ついた頃から、私にと…

迷子になった背黒鴎

17の秋、ただの日曜日。 アルバイトの休憩時、店から割と近い公園のベンチに腰掛け、スーパーで購入したばかりのサンドイッチとブラックコーヒーを胃に流し込み、背もたれにゆったりと寄り掛かったまま煙草に火を付けた。 私はきっとこれからもこのチンケな…

ワタシはニジキジ ⑵

数年前、私は一度だけ彼に別れ話を持ち掛けたことがある。 理由は探せば幾らでも見つかるけれど、その中でも一番は、普段から私の意見に耳も貸さず、酷い時は私を馬鹿にし、いつも自分の意見が正しいという態度だったからだ。 この先もずっとこのままの調子…

ワタシはニジキジ ⑴

七月七日。 それは彦星と織姫が一年に一度だけ逢える日だという。多くの人はそれを悲劇だと嘆いたり同情したりするのかもしれないが、私からすれば彼等は羨望の対象だ。 想い人とはたまに逢うからこそ更に愛しく感じるし、美しいのだと私は思っている。近く…

信天翁を追いかけて

人生に無駄なことは無い そう言った優しいあの子は 正しくて綺麗だったのに 私はその子を思い出せない 人生は無駄なことだらけ 私はそう思ってしまう けれど それが歪んでいるとも 間違っているとも思えない 生きているとうんざりするくらい 要らないもので…

10月29日の木菟

《久しぶり〜!元気?》 その言葉に律子は苛立っていた。 それが本心からの心配ではなく、挨拶程度に使っているだけだと分かっているからだ。 彼女のことだから、どうせまた自分の用件を話したいが為に連絡をしてきたのだろう。 律子は溜め息を吐いた。 《う…

あの人は線の彼方へ

朱と蒼が交わるこの街から あの人がいつか居なくなるような そんな気がしていたの 微かに香っただけなのに 確かに私の横を通り過ぎた 道路の白線が歪む彼方へと 引き寄せられていく背中を 私は見つめることしか出来なくて その場に立ち竦んでた あの日から私…

雨の日の鶎

空が、泣いている。 僕も、鳴いている。 空から降る涙の粒たちに全身をびっしょりと濡らされながら、僕は世界を嘆いた。 《如何して僕は棄てられたの?》 兄弟たちは選ばれた命。片や僕は、選ばれなかった命。一体何が違っていたのだろう。 ねぇ、空よ。泣い…

ハクトウワシの空

大空を羽ばたきたいと願う 雲の切れ間をくぐり抜け 誰にも手が届かないほど 遠い所へ 晴れやかな青い空に 手を伸ばす なんのために生まれてきたの 肝心なことは誰も分からないまま 胸の奥が真っ黒に渦巻いて 迷い子たちは独りぼっち いつになれば ここから抜…

海鴉が鳴いている⑻

何度も何度もその手紙を読み、彼女の言葉を深く心に刻んだ。その間、私の涙は絶えず流れていて、涙は枯れることはないのだという事を知った。 気が付けば外は明るくなっていた。 こんな手紙を読んでしまったら、さすがに眠れる訳が無い。 泣き腫らした目をし…

海鴉が鳴いている⑺

一体どれくらいの時間が経っただろう。 震えは収まったが、まるで封筒を握っている指先以外の神経が麻痺しているかのようだった。 力が入らない。 何度も何度も深呼吸を繰り返す。 そして、覚悟を決めた。 机の引き出しからハサミを取り出し、丁寧に封を開け…

海鴉が鳴いている⑹

ほとぼりが冷めた頃、携帯電話は私の手元に戻ってきたけれど、電話帳の“あ”行や着信・発信履歴を何度確認しても彼女の名前は何処にも無かった。更には、メールの履歴までも。 彼女の存在は微かに残ることも無く、大人の力によって完全に消し去られてしまった…

海鴉が鳴いている⑸

最後まで大人の要求を聞き入れなかった私達は、2週間程の停学処分になった。 どれだけ子供が大人に声を上げたって、結局は届かない。所詮私達は無力なのだと思い知らされただけだった。 親からは携帯電話まで没収され、彼女と一切連絡が取れなくなった。停…

海鴉が鳴いている⑷

私達は晴れて恋人同士となった。 と言っても、“恋人”という肩書きなど、私にとって大して重要では無い。彼女と心が通じ合えたということだけで十分幸せだった。 学校ではいつも通り仲の良い友人として過ごした。今までと違うところは、それに加えて休日も頻…

海鴉が鳴いている⑶

私達はいつも2人で居るようになった。 彼女は、見かけによらずよく笑う人だ。中身は明るくて可愛い普通の女の子で、今まで出逢ってきたどんな子より純粋だった。当初抱いていた偏見を恥じる程に。 クラスメイトは私達の空気の中に入れないのか、それとも敢…

海鴉が鳴いている⑵

何とか腹痛を耐え抜き、式が終わった。 それぞれ振り分けられたクラスへと向かう。極度の人見知りの私が初日から見知らぬ人に話し掛けられる筈も無いので、ただただ俯きながら廊下を歩いた。 教室に入ると、黒いお下げ髪の群れ。 周りは早くもグループが出来…

海鴉が鳴いている⑴

「そこを左に曲がって・・・郵便局が見えたら右ね。」 「郵便局なら逆方向だけど。」 「・・・嘘。」 「あんたって本当方向音痴だよね。当てにならんわ。」 そこまで言わなくたっていいじゃない・・・。 彼女はいつも私を小馬鹿にしながら、ハッキリとした物言いをする。本人…

コヨシキリ

今、あなたが何処に居て 何をしているのか 私は知らない そして、それを知りたくても 私があなたを探すことは きっとこの先も無いでしょう もし、それをしたとして 本当はもうこの世界には居なくて あなたを見つけることが 永遠に出来なくなるかもしれない …

鶍の嘴⿴⿻⿸⑵

私は、彼より2時間程早く起床する。適当に顔を洗い、彼が毎朝飲む珈琲や、お昼に食べれるかどうかも分からないお弁当を用意する。彼を起こす時間にセットされた携帯のアラームが鳴ったら、寝室へ向かう。彼は朝が弱いので、何度起こしてもなかなか目を覚ま…