鳥たちよ、自由に羽ばたいてゆけ

私たちもいつか羽ばたけると信じて

海鴉が鳴いている⑸

最後まで大人の要求を聞き入れなかった私達は、2週間程の停学処分になった。

どれだけ子供が大人に声を上げたって、結局は届かない。所詮私達は無力なのだと思い知らされただけだった。

親からは携帯電話まで没収され、彼女と一切連絡が取れなくなった。停学中は家から出ることも許されないので、外へ逃げ出さないよう常に監視されている。

 

 

 

ベッドに寝転がり、天井を仰ぐ。

牢獄の中に閉じ込められている犯罪者のような気分だった。

 

例え目に見えるもの全てを取り上げられたって、目に見えないこの心は絶対に奪われたりしない。私は、彼女を想わない日はなかった。

今は何もしたくない。私達を異常者扱いし、一切理解しようともしてくれなかった両親と顔を合わせるのも嫌だった。

毎朝、部屋のドア越しから母に声を掛けられても、私はただ耳を塞いだ。

 

私達を友人関係であると信じて疑わなかった頃は、「娘と仲良くしてくれて新ちゃんには本当に感謝している。」なんて調子のいいことを言っておきながら、恋人同士であるだと分かった途端、「あの子は見た目も“あれ”だし、最初から普通じゃないと思っていた。」なんて簡単に掌を返すような親となんて、この先どんな顔をして話せばいいというのだろう。

「親は子のことを誰より愛し、そして幸せを願っている」と口では偉そうに言う癖に、子である私のことを今こんなにも苦しめているということに全く気が付いていないじゃないか。

私達が“間違い”で、世間が“正しい”。

いつも自分の価値観を押し付けて、何でも勝手に決めつけている。周りにはそんなものばかりが溢れていて、馬鹿馬鹿しくて吐き気がする。

 

きっと私も以前はつまらない人間だった。愛を知るまでは、他人を偏見の目で見て判断し、自分と違うものを心の中で批判し、真意を知ろうともしなかった。

 

ねぇ、アラタ。

立っている場所が少し違うだけで、景色はこんなにも違って見えるんだね。私、貴女に逢うまで気付かなかった。

 

堪らなく貴女が恋しくて、こんなにも愛しい。

ただそれだけが、私にとっての正義だ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

停学明け初日。

学校に行けば彼女に会えるだろうが、以前のように一緒に居られないかもしれないと思うと怖い。かと言って学校を休むと親に監視されている自宅に居ることになるので、それはそれで限界だった。

全身鏡に映る自身の顔を見つめる。こんなに暗い顔をして制服を着るなんて、入学したばかりの頃以来だろうか。

あれからもう半年も経ったのか・・・。

 

 

誰とも目を合わすことなく、俯いたまま教室の扉を開ける。先程まで賑やかだったのに、一瞬、静寂に包まれた。そしてまた何事も無かったかのように賑やかしい空間に戻った。

私と彼女は、この名前も顔も無いような数え切れない程の加害者に八つ裂きにされ、殺されてしまったのか。

ふと、自席の後ろに視線を送る。

当たり前に在る筈だった、彼女の席が無い。

 

 

気付けば教室を飛び出し、職員室へと走っていた。担任を見つけ出すと、私は涙を浮かべながら問い詰めた。

「停学明けまで言わないでくれと、本人から頼まれていたの。彼女は今回の件で、貴女を傷付けてしまったと責任を感じて自主退学をしたのよ・・・。保護者の方の意向もあって既にご自宅も引っ越したそうよ。」

 

甲高い耳鳴りのような音だけが響く。

もう、誰の声も聞こえない。

 

確実にそこに在ったものを、まるで最初から無かったかのようにされてしまった。周りの“正義”たちから。

彼女は何も悪い事をしていないのに、先生はどうして退学を受け入れたの?仮に悪いのだとしても、それなら私も同罪の筈。どうして誰も私に教えてくれなかったの?どうして彼女は私に何も・・・

どうして・・・どうして・・・どうして・・・

 

 

 

あの時、彼女に好きだなんて言わなければ良かった。私さえ自分の気持ちに蓋をしていれば、今でも彼女の隣に居られたかもしれない。この先も、友人として笑っていられたかもしれない。

 

こんなことになるなら、最初から好きにならなければ良かった・・・。